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題「インプラント治療費にあなたは満足、不満足」
*高すぎないかインプラント治療
第3章インプラント治療の実際
●短時間で痛みも感じずに終了するインプラント手術
インプラントの手術というと、たいへんな手術と思われるかもしれませんが、フィクスチャーを埋め込むだけの手術であれば、15分ほどの短時間で終了します。患者さんも、「あれほど心配したのにこんな早く簡単に終わるとは」と、拍子抜けされることが多々あります。
インプラントを埋め込む孔をドリルで開けると聞くと、患者さんも不安に思われますが、麻酔もして無痛で行いますので、通常の歯を削る感覚とほとんど変わりません。使う器具も規格化されており、安全性、確実性ともに向上しています。他の口腔外科手術、特に頻度の多い親知らずの難しい抜歯のほうが、患者さんのとっても歯科医にとっても負担が大きいくらいなのです。
ただ、インプラントにおいては理想的な位置にフィクスチャーを埋め込まなければならないため、精密な検査と確かな技術が必要になります。これは、やはり手術経験数が非常に影響してくるのですが、千本以上も経験すると、通常の手術などは、鼻歌混じりで出来るようになります。また、難しい症例では、最先端のコンピューターを使ったCT画像処理診断ソフトなども使用しますから、精度はますます高まってきています。
●カウンセリング
最初に問診票にご記入いただき、それに基づいてお話をうかがいます。歯を失った状況について、また、現在の状況についての悩み、不満、そしてこの点をこのように改善してほしいといった要望を詳しくおうかがいします。そうした悩みや要望に対して、インプラントではどのように治療をしていくのかをご説明します。インプラントそのものについての説明をはじめ、治療の流れ、治療後のメンテナンスまでわかりやすく一通りのご説明をし、患者さんに理解を深めていただきます。
その際、インプラント以外の治療についてもご説明し、いくつか選択肢があることを知っていただいたうえで、最終的には患者さんが自ら治療方法を選択していただくことになります。その際、医師が考えるベストチョイスについてはもちろんアドバイスしますので、そうした意見を総合されたうえで決めていただくのがよいと思います。
疑問点や心配していること、気になることがあれば、遠慮せず質問をしていただくことが肝心です。自分のライフスタイルや費用の面等のバランスをみながら、じっくりとお考えいただいてけっこうです。すぐに決めずに家族の方々ともよく相談されるとよいと思います。そうやって納得のいく形で治療に踏み出すことができるようインホームド・コンセントには充分な時間をかけています。
●検査・診断
治療の前の検査では、お口の中の検査として歯周病やむし歯等のチェックのほか、粘膜や骨の様子を医師が診察をします。そのほか骨量や骨質、骨の形態の予測を行うためレントゲン撮影、必要に応じてCTスキャンを行います。
レントゲン撮影は一般的には、正面のものと歯列全体を1枚に収めるパノラマX線撮影を行います。これにより、インプラント埋入予定部位の骨量、骨質、骨形態をある程度予測します。
ただ、2次元の画像であるX線写真だけでは不十分である場合は、CTスキャンによってより正確な画像を得ることができます。骨量、骨密度のほか、血管や神経の位置等が把握できるほか、CTスキャン画像処理ソフトウエアを導入することで三次元画像が得られるほか、コンピュータ上でインプラントの埋入のシミュレーションをすることができます。こうした精密な検査やシミュレーションにより、これまでのような歯科医の勘に頼る手術から、より確実で安全な手術が行えるようになっています。
次に口腔内の模型の作製を行います。インプラント治療のカギを握るのはなんといっても骨の状態になります。そのために口の中の型をとって石膏で模型をつくり、あごの骨の状態、厚み、歯肉の状態など口腔内の状態を正確に把握します。また、この模型を咬合器という器械に装着することで、その患者さんの噛み合わせを再現することができます。この模型を使いながら、治療計画を立てます。
インプラントは外科的手術が伴うので一般的な手術のときと同様、全身の健康状態をチェックする必要があるのです。
持病のある方は主治医に意見をうかがって治療の決定を決めます。
●全身症状がよくない場合
インプラントの手術に先立って、内科的に問題をかかえる患者さんには医師の管理下にあり、症状が安定していれば、多くの場合はインプラントをして差し支えありません。
ただ、重度の糖尿病や高血圧症、心臓病、脳血管障害、腎臓病、肝臓病などの疾患がある方は、外科手術に耐えられないという判断から、インプラント治療を受けられない場合があります。
また、腎不全で血液濾過透析治療を受けていらっしゃる方の場合は担当医との相談が必要になる場合があります。
こうした重度の疾患をお持ちでない場合は、高齢の方でもインプラントは十分受けられます。たとえば、高齢の方が骨折をしても必ず治癒していくわけですから、インプラントもそれと同じであごの骨の中にインプラントを植立することができるのです。ただ、若い人に比べて骨折が完全に治癒するまで時間がかかる場合があります。ですから、インプラントの場合もあごの骨にしっかりと固定されるまで期間を長目にとるということはあります。
また、骨粗しょう症についてですが、海外の研究者から「骨粗鬆症はインプラントの危険因子にならない」という論文が複数発表されています。ですから、骨粗しょう症の方も心配には及びません。ただし、骨粗鬆症患者さんが多く服用されているビスフォスフォネート製剤は外科的処置による顎骨壊死と言う副作用が報告されているので慎重に行う必要があります。
●前処置が必要な場合
検査によって、理想的な位置にインプラントを埋入するには骨量が不足と判断された場合には前処置として骨の再生治療を行う場合があります。ソケットリフトとかサイナスリフトとかいう骨造成や骨の移植手術のことですが、その人工骨がしっかりと固まったり生体の骨に置き換わるまでに4?5ケ月かかります。
最近はハイドロキシアパタイトやβ-TCP、などという人工の骨補填剤も進歩してきたので、以前のように腰の骨を削って顎の骨に足すというような、入院を必要とするような手術はなるべくしないようになりました。むしろ顎の骨から取る方が簡便で入院を必要としないので手術頻度が高くなっています。
また、インプラント治療に入る前には当然、むし歯や歯周病の治療や抜歯などの処置も行います。
●フィクスチャーを埋め込む手術
インプラント手術では最初にフィクスチャー(チタン製の人工歯根)を埋め込む手術を行います。専用のドリルを使ってあごの骨にフィクスチャーを埋め込む孔を形成します。ドリルは数本使いますが、1本を使用している時間は数秒といった短時間です。細いドリルから太いドリルへ、また、埋め込むフィクスチャーの形状に合わせて孔を形成していきます。深さ、孔の径などを正確に形成し、そこにフィクスチャーを埋め込みます。埋め込んだあとはその上を歯肉で被って縫合します。
また、骨幅が充分あるケースでは、歯肉を切開しないで、最小限の穴だけをパンチングしてフィクスチャーを埋め込む方法を多用するようになりました。それによって歯肉も縫合する必要がなくなり、術後の痛みや出血もほとんどありません。ですからフィクスチャー1本を埋め込むのに要する時間は数分もあれば十分です。複数本を埋入する場合でも30分以内で終了します。
●無痛治療
手術に際しては局所麻酔ですべて行い全身麻酔の必要はありません。局所麻酔の前に表面麻酔をしたり、注射をする際にも侵入点、進入角度、進入速度に注意を払ってしますのでほとんど痛みも感じることなく、安心していられます。
入院の必要は当然ありません。術後はレントゲンで正しく埋められていることを確認した後、すぐにご帰宅いただけます。抜歯のときと同じで、その日は激しい運動は避けていただきますが、通常の生活をされて何ら問題ありません。
術後の腫れや痛みも、患者さんが想像されているより、ほとんど軽度ですからご心配には及びません。とくに最近多くなったMIではその傾向が強いです。
●MI(MinimalIntervention)が手術の主流になる
どんな手術においても、なるべく切らない,開けないという「最小限の侵襲」で行うことが術後の腫れや痛みを少なくすることに大きく影響しています。
インプラント手術においても同様で、以前は歯肉を切開して剥離していたのが最近では、わずかな穴をパンチングするだけでインプラントを埋入することが多くなってきました。勿論そのためには、十分な経験と診断(難症例はCTを使用した解析)が必要なのですが、MI手法によりインプラント手術時間は大幅に短縮され(約15分)、術後の腫れや痛みもほとんどなく、痛み止めを飲まれる患者さんは少ないほどです。
●インプラント治療にレーザーが効果的
最近では、皮膚科、眼科、整形外科などあらゆる医療分野でレーザー治療が最先端治療として効力をはっきしていますが、歯科においても例外ではなく、歯周病や口内炎、術後の疼痛や出血などに頻繁に使用しています。当院では、YAGレーザーと炭酸レーザーの2種類のレーザー装置を使用しています。2種類のレーザーはそれぞれ一長一短あり、症例によって使い分けていますが、吉田製作所のオペレーザーPRO(炭酸レーザー)はインプラント治療にとっては非常に効果的で、インプラント手術後の治癒促進やインプラント周囲炎の治療、あるいは審美治療などに欠かすことが出来ないほどです。
レーザー光線というと、なんだか恐ろしい光線のような先入観がありますが、体には全く副作用がなく、痛みもほとんどありませんからご安心ください。
●オッセオインテグレーションを待つ期間
一般的には、フィクスチャーを埋め込んだあとは歯肉を被せて縫合し、完全に粘膜の下に完全に埋め込みます。こうすることによって細菌感染などを防ぐことができ、また、咀嚼時の圧力が直接かからないようにします。
縫合した場合は、一週間後に傷口のチェックと抜糸のために御来院いただきます。その後は入れ歯や仮歯の調整のために来ていただくこともありますが、基本的には通院の必要はありません。
フィクスチャーを埋めたあとは周囲の造骨細胞が新しい骨をつくり、フィクスチャーとの結合を強化していきます。この新しい骨が石灰化して硬くなるまでには数か月を要します。下顎よりも上顎の方が時間がかかり上顎で約3ヶ月、下顎で約2ヶ月が目安になります。以前はもっと長期間要したのですが、最新のハイドロキシアパタイト(HA)インプラントを使用することにより、かなり期間短縮できるようになりました。
この期間中は部分入れ歯等を入れて過ごしていただくことができるので日常生活に支障はありません。また、総入れ歯をされていた方は、その入れ歯が使えるように調整して使っていただきます。その際、フィクスチャーを埋め込んだ場所に圧力がかからないように内部を少しくり抜きます。
●アバットメントの連結
フィクスチャーがしっかりと根付いたら、次に2回目の手術となります。2回目の手術は簡単なもので1回目ほど大がかりなものではありません。歯肉を小さく切開してフィクスチャーの頭部を出し、人工歯を連結するためのアバットメントとよばれる小さな部品を装着するだけです。アバットメントは人工歯を支えるための支台(芯のような形状です)となります。かかる時間はごく短時間です。
アバットメントはフィクスチャーと人工歯を連結するものですが、審美的な面でも貢献します。歯肉の厚さや人工歯とのバランスを図るためにさまざまな形や長さのものがあるので、実際に人工歯が装着された際に、より美しく見えるように微調整をすることができるからです。また、このアバットメントによって角度や長さが調整できるため、人工歯を設計する際にもよりその方のお口にあったものが作成できるのです。
フィクスチャー、アバットメント、そして人工歯はそれぞれネジで連結されることもありますが、最近では人工歯は仮着セメントでアバットメントに固定されることが多くなってきました。そのほうが審美的にも優れていますので当院ではほとんどセメント固定方式をとっています。
また、前歯と臼歯では少し異なりますが、アバットメントを装着して歯肉の状態がよくなれば、支台部の型をとり、これをもとに、専任の歯科技工士が人工歯(上部構造とよばれます)を作製します。
●人工歯の装着
セラミックでできた人工歯ができてきたら、それを支台のアバットメントに取り付け、噛み合わせの調整をします。前述したように天然の歯であれば、噛み合わせに多少不具合があっても歯根膜のクッションによりカバーされ違和感がなくなるのですが、インプラントの場合は歯根膜による遊びがないために、それだけ精密さが要求されるものです。ですから、違和感があった場合、いつまでたっても慣れるということがありません。そのまま放置しておくと、インプラントに過度な力がかかり脱落したり、噛み合わせに不調和をきたし顎関節症になる可能性もあります。ですから、そのうち慣れるだろうと思わずに、違和感があれば、その場で担当医に話して咬合調整する必要があります。
また、人工歯の色調や形態が周りの歯と同じようにできているかも重要な関心ごとです。とくに前歯部では審美的に満足いくかどうかが重要な要素となります。
●上部構造はジルコニアセラミックスが理想(新世代の審美材料ジルコニアの登場)
インプラントの上部構造は、いまやメタルボンドよりオールセラミックスが主流になりつつあります。
MB(メタルボンド)は長年にわたり審美的な被せ物としては最高のものでしたが、金属が裏打ちしてあるために時間が経過すると歯茎が変色したり、金属アレルギーの患者さんには適さなかったりしました。しかし最近、NASAの宇宙工学から開発されたジルコニア(酸化ジルコニウム)という強靭な強度をもった特殊なセラミック(人工ダイヤ)を使用することにより、金属をまったく使用しない被せ物ができるようになりました。
この最新素材は、強度(1200mpa)と、耐摩耗性に優れ、熱伝導率が低く断熱性がよく、熱膨張率も金属に近く耐食性にも優れています。また比重が金属の3分の1程度(6.05g/c?)しかないため、これらの特性を生かして、審美性に優れ、生体親和性の高い歯科材料(インプラントのアバットメントや上部構造など)として注目を浴びています。現在は、ジルコニアセラミックスは、スペースシャトルの断熱材や車のブレーキ部分などにも広く使用されています。ただジルコニアは金属のように溶かして形をつくるのではなく、全て削りだして作るのですからコンピューター制御の非常に精密な機械が必要になります。最近は、日本でもジルコニアセンターがやっと出来てきましたが、厚生省の認可が遅かったため、まだまだ先進国には遅れています。
●ジルコニアセンターを訪問して
最近のインプラント治療技術もさることながらインプラント材料の進歩もめざましく、
世界中が開発競争を繰り広げています。
そして今や、歯科の分野においてもボーダレスな状況で国境をこえた連携があたりまえのようになってきました。
そこで私は最近、ジルコニアなどの新素材を超高精度に切削する世界でも最先端の技術をもつTDSMILLINGCENTERを台湾まで視察にいってきました。後で知ったことですが、私が日本人歯科医師として初めて視察を受け入れてくれたそうです。
ここは、POUCHENGROUPという靴や電子産業の巨大世界企業(社員43万人)ですが、2004年から、最先端のCADCAM(computeraideddesign,computeraidedmanufacture)のノウハウを生かして、ジルコニアやチタンを精密に切削するTDSMILLINGCENTERを設立し歯科業界にも進出してきました。(社員252人)
写真のように一台数千万円もするレーザーで3次元的に測定され、コンピューターの設計と指示により切削する精密機械が12台設置され
その精度のすばらしさには目を見張りました。
よく日本のインプラント学会などで、誇らしげにジルコニアの上部構造を使用した審美インプラントの症例発表をみかけますが、ここでは毎日のようにアメリカの各州のインプラント医から航空便でたくさんのインプラント埋入後の印象模型(難しい症例も多い)が送られてきて、メールで緊密な連絡をとりながらカスタムアバットメントや複雑な上部構造を製作しています。
「まさか、ここまで進んでいるとは・・・・・」日本のインプラント治療は厚生労働省の認可の遅さもあり、欧米に遅れをとっているという印象を強くもちました。
右写真は、その一例ですが、インプラントを
植立した上に、チタンのフレームやジルコニアのアバットメントをミリングマシンで削りだして製作したものです。誤差20μmの精度は世界最高規準といわれています。もちろんTDS以外にも世界にProcera,Lava,Cercon,CerecI,Hintelなどのメーカーの切削機もありますが、このTDSの精密度は他社の追随を許しません。
今後、このようなコンピューターによる歯科技工システムが歯科界を席巻していくことは避けられない事実ですが、一般の患者さんに普及させているためには、いかに低料金に抑えて提供できるかがポイントだと思います。コストのかかる分野なのですが、なんとか歯科医師だけでなく業界共々この壁を乗り越えて、リーズナブルな料金で提供できるよう努力したいと思っています。
今回の訪問の目的のひとつに最高精度の技工物をよりリーズナブル料金で出来るような交渉も兼ねていたわけですが、実現できればと思っています。
●噛み合わせと顎関節症の関係
前述したようにインプラントは顎の骨に結合するため、天然の歯のような遊びの部分がありません。それだけに噛み合わせの調整は精密に行う必要があります。
噛み合わせが悪いと顎の関節に負担をかけてさまざまな症状を引き起こす場合があります。口を開けるときに、耳のところにある顎関節がポキポキなるとか痛み、口が開けづらいなどです。こうした症状があると顎関節症が疑われます。この顎関節症は原因が一つではなく、複数の原因が重なり合って症状を呈するものですが、その原因の一つにあごの位置のズレがあります。
顎の位置がずれる原因にはさまざまありますが、たとえば片方の奥歯で噛む癖があると、その逆の方にあごがズレてきます。このような噛み癖が原因になるほか、歯を治療したあとの被せ物の高さが合っていない場合もあります。また、総入れ歯の場合は、土台となるあごの骨が痩せて低くなると、噛み合わせも低くなってしまいます。
噛み合わせが低くなると、下あごが後退することになり、顎関節がズレで負担をかけることになります。そのために顎関節症を引き起こすことが多いのです。
あごの位置がずれると、体の重心の位置もずれるため、その分だけ体の方は筋力を使ってバランスを取ろうとします。そのために首や肩が凝ったりします。背骨はSの字状に湾曲していますが、その湾曲も下あごの位置が変わることで微妙に変化せざるを得なくなり、ときとして背骨の中を通る感覚神経や運動神経、自律神経を圧迫して腰痛が出たり、手足がしびれたり、冷えたりといったことが起こる可能性があります。
このように噛み合わせの悪さは下あごの位置のズレを招き、顎関節症、ひいては全身症状をも引き起こしかねないのです。そうならないためにも、噛み合わせの調整は慎重に行う必要があります。インプラントの場合は骨との強固な結合をしており、そこには弾力性がないため、なおさらです。私は顎関節治療の担当医として長年、治療をしてきた経験を生かし、「生体に調和した咬合」を考慮したよく噛めるインプラントを実践しています。1本1本のインプラントの噛み合わせについて、上下の接触点が正しく当たっているか、噛み合わせの高さは合っているか等を慎重に検討し、患者さんの満足のいく噛み合わせを実現しています。
この顎関節症の治療については第4章で詳しく解説してありますので是非参考にしてください。
●1回の手術を行う方法(1回法)と2回法とのメリット・デメリット
患者さんにとってはやや難しい話ですが、インプラントの手術には、手術が1回だけで済む「1回法」と、インプラントを埋め込むときの手術と、アバットメント(支台部)を装着するときの2回手術を行う方法で「2回法」といわれる方法と、いう二通りの方法があります。どちらもそれぞれ長所と短所があり、症例により使い分けることが必要になります。
わかりやすくいえば、1回法は1回で手術が済む点で患者さんの負担は少ないといえますが、1回法が適用になるのは骨量が十分にあって、インプラントをそのまま埋入できる場合です。しかし、多くの場合は歯周病やむし歯等の感染症で歯を失っている方が多いので、歯周組織や歯の周りの骨もたくさん失っている場合が多いのです。そのなるとインプラントを理想的な位置に埋めるためには骨量が足りないという事態になり、補うために骨移植などを行いますが、そうなると1回法では感染のリスクが高く審美的にもよくないので2回法が有利になります。
一般的には1回法で問題はありませんが、このように骨増生が必要な方は、多くの場合は2回法になることが多いのです。
●安全で殺菌力の強い機能水(強酸性水)はインプラント治療に必須
医療に使用する機能水とは、優れた抗菌性・殺菌能力を発揮する電解酸性水のことですが、一般治療のみならず、インプラント臨床においても極めて有効です。
以前は、強力な薬剤で殺菌していたのですが、残留性が高く排水による環境汚染など深刻な問題があり、殺菌能力が高く残留性の全くなく、人体に対して為害作用のない強酸性水を使用し、患者さんや周辺住民の皆さんから好評です。
この電解水はPH2.2~2.7の強酸性により、30秒間浸漬するだけで細菌は瞬時に死滅してしまうため、手指消毒や患者さんの顔面皮膚消毒や口腔内洗浄、チェアーなどユニットの消毒には欠かせません。
特に、インプラント治療では感染対策が重要になるので、オートクレーブで滅菌できない器材や緊急使用の器材消毒には最適ですし、インプラント内部の消毒やインプラント周囲炎のリカバリーなどにも使用し、当院ではなくてはならない優れものです。
●定期検診を忘れずに
インプラントの上部構造を被せた後、1?2週間ほど日常生活を送っていただいたあと、診察に来ていただきます。土台にゆるみもなくインプラントがきちんと機能しているかどうかチェックをします。このときにまた、噛み合わせ等の不都合がないかどうかを確認します。もし、気になるような点があれば、ここでまた微調整をします。また、インプラントに汚れがないか、歯ブラシの状態もチェックします。最初に、上武構造を装着するときのセメントは、柔らかい接着力の弱いものを使用しますので、何か不都合が生じたときは、はずして修理したり、メンテナンスができるようにしてあります。
その後は3ヶ月、6ヶ月後、1年後と定期検診を行い、インプラントの状態を確認します。1年過ぎて経過が順調であれば、毎年1回のペースでの定期検診とメンテナンスを行っていただきます。メンテナンスの際には、人工歯の咬合に異常はないか、周囲歯肉の炎症はないか、アバットメントとの連結に弛みはないか、また、インプラント周囲の骨が吸収していないかなどを点検します。
また、ご自身のお口の中のブラッシング手法の点検と噛み合わせなども調整して、常に快適な状態でインプラントが使えるようにします。
●インプラントを長持ちさせるために
天然の歯もそうですが、口腔内の衛生管理がなにより大切です。通常の歯ブラシはもちろんですが、定期的に専門的なメンテナンスを行う必要があります。というのも歯ブラシだけでは落とせない汚れがあり、そうした汚れがいずれは歯肉の炎症を起こし、歯周病へと発展するからです。
インプラントをしたから、歯周病にはならないということはなく、管理が悪ければ細菌によって歯周組織が炎症を起こしてインプラントが動揺し、ぐらついてきます。最終的にはインプラントがだめになってしまうこともあります。そうならないためにも家庭での日常的な歯ブラシと定期検診が欠かせません。
アフターケアの中で強調したいのは、インプラントにはウオーターピックという口腔洗浄機が非常に有効であるということです(写真参照)。これは、私と同級生である東京医科歯科大学インプラント科の春日井教授も推奨していることですが、インプラントの唯一といってもいい、物が挟まりやすい欠点をしっかり解消してくれます。これは植物残渣(食べかす)を水流で快適に洗い流し、同時に歯肉マッサージ効果も与えてくれる優れものです。歯間ブラシに比較しても、断然効果が高いものです。
"インプラントを入れたからもう安心"ではないのです。インプラントでしっかりと噛めていても、ほかの歯が歯周病などでだめになってしまってはさらにインプラントの本数を増やさなければならなくなります。現実にはインプラントの方が持ちがよく、天然の歯の方が先にだめになってしまうという方が意外に多いのです。
しかしながら、"歯が悪くなっても最後はインプラントをするから大丈夫"と安心されるのも考えものです。
インプラントは自分の残った歯をできるかぎり長持ちさせるためにあるのです。残っているご自身の歯をできるだけ長く使うことこそ大事なのです。そのためにはこれまで以上にご自身の口腔内の衛生には注意を払っていただきたいと思います。
このように家庭で、そして専門医でのお口の中の清掃・管理を継続して行っていくことがなにより重要です。
●医療費控除の対象になります
インプラントの費用は医療費控除の対象となります。確定申告のときに申請することによって、所得総額と治療費に応じて所得税の一部が戻ってきます。
医療費控除では1年間(1月1日から12月31日まで)に医療費が10万円以上かかった場合に適用されます。なお年収によっては支払った医療費が10万円以下でも控除の対象となる場合があります。
医療費の控除額は支払った医療費の金額から保険金等で補填された額を引いて、ここから10万円(または合計所得金額の5%のいずれか低い方)を引いた金額になります。計算式は以下のようになります。
・医療費控除額(上限200万円)=(支払った医療費の総額?保険金等で補填された額)?10万円(or合計所得金額の5%)
これは控除額で、この計算式の金額がそのまま還付されるわけではありません。それぞれの所得に応じた税率を適用して還付金の額は計算されます。
なお、医療費控除は本人と生計を同じにする親族(配偶者や子ども)の医療費も対象になります。妻に収入があって扶養家族からはずれていても、夫の医療費と合算できます。
医療費の領収書等は確定申告のときに添付しますので、大事に保管しておいてください。そのほか病院までの交通費も控除の対象になりますので、日時等をメモしておくことをおすすめします。